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SH I GA I DA I NEWS v o l . 2 1
健康社会経
公衆衛生看
教授
か わ ば た
紀枝
個人の努力では解決しない健康格差問
最近ようやく日本でも関心が高まってき
た健康格差は、 世界保健機関 (WHO) によ
ると 「人々の間における健康状態の差ある
いは健康を決定する様々な要因の分布にお
ける差」 と定義されています。 大切なことは
その差が
避けられるものか
」どうかとい
う点です。 例えば高齢者と若者の間では運
動機能に差があります。 しかしこれは生物
学的に避けることができないものです。 一
方で、 人種や民族、 社会階層、 雇用や労働条
件、 ソーシャルキャピタル、 地理的物理的環
境の違いによる健康の格差は、 個人では制
御できませんが、 社会の組織的努力により
避けることができます。 後者は不平等な健
康の格差 あり、 その是正が世界的課題と
なっています。
例えば、 今、 日本でも食生活や健康管理に
気を配る経済的なゆとり ない人が増えて
います。 また、 健康保険に加入できない非正
規労働者は病気になっても医療機関を受診
できな といったことが 健康格差の問題
としてクローズアップされています。 しか
し、 本当に問題なのは低所得者が不健康で
あること はなく、 人々が憲法で保障され
た最低限度の文化生活を維持できない社会
労働者の生活習慣と社会構造が
るか、 インフォーマルな労
働者としての生活が
出す過程を明らかに
え方をベー
判」 と訳すと日
言うと普
して
のあり方です。 非正規労働者の人々の
は不規則になりやすく正規労働者と比べ
康障害を起こす可能性が高くなります。 現
在の政策では健康の維持向上を生活習慣の
改善など個人の努力に期待しています。 し
かし非正規な仕事に就いている人々の健康
問題は個人の努力だけでは解決できないと
思います。 
2013年4月から施行される 「健康日
21」 の次期プランでは、 国民の健康増進の
推進に関する基本的な5つの方向として、
「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」 と 「健
康を支え、 守るための社会環境の整備」 を掲
げ、 個人を対象とした政策と合わせて、 健康
格差を縮小させるために社会環境を整える
ことが初めて盛り込まれました。
「個人中心
の目標だけでなく、 生活や労働環境などさ
まざまな要因を考慮して計画をたてるこ
と」 として、 ようやく各都道府県が目標値を
定めて健康格差問題に取り組んでいくこと
になります。
社会環境要因を質的な調査で分析
日本では健康格差について
10数年程度前
から研究が始められ、 少しずつ日本の中の健
康格差の実態が明 かになってきました。 し
かし社会経済的環境が実際にどのようなメ
カニズムで健康に影響するのかということ
はまだ十分には解明されていません。
私は社会環境要因の中でも特に経済的要
因に注目し、 数年前まで大阪の釜ヶ崎の日
雇労働者の地区で調査活動をしておりまし
た。 都会の真ん中に住みながらも社会から
排除されてきたため調査は少なく、 生活や
健康の実態は見えにくい状態でした。 私は
民族誌学的研究手法を用いこの地区でボラ
ンティアとして活動し、 労働者や支援者と
の関係を築きながらデータ 集めました。
を経て機能低下を引き起こす
ていきたいと思います。
につなげ政策に生か
などさま
データいは
公衆衛生看護学講座 教授
川畑 摩紀枝
健康や健康格差の形成に
授は、非正規労働者などの
会環境要因を明らかにする調査