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SH I GA I DA I NEWS v o l . 2 1
人形との関わりが認知症高齢者の不安を和らげる
人形療法の効果と可能性について
のような くことが認知
認知症高齢者の
老年心理学者
Tom Kitwood
は 「慰め (安定
性) 」
「愛着 (絆) 」
ズ) 」
「没頭性 役割意識
性) 」 の5つがあり、 そのい
ると波及効果があると述べていま
研究の結果、 人形が果たす役割には
ような点があること わかりました。
認知症高齢者は、 人形とかかわる中で、
「没頭性」 や 「自分らしさ」 を見出すことに
よって心理的ニーズを満たし、 安 につな
がる。 2
「今」 を生きる認知症高齢者を過去の輝
いていた頃の記憶 (人生を支えてきた証) へ
結びつける橋渡しの役割をする。
人形と対峙することで、 一人ではないと
いう気持ちが生まれ、 さみしさが緩和され
る。 
認知症高齢者が人形療法で落ち着きを取
り戻したのは、 現在と人生を支え きた証
とを結びつけ、
「没頭性」 や 「自分らしさ」
「慰
め」
「愛着性」 を人形との関わりに投影する
ことで、 安心感が生じたためだと考えます。
また、 好ましい人形の形態についての考
察では、 対象者が人形に何を求めるかに
よって人形の形態は異なるが、 目が開眼し
ている (あるいは開閉する) 、 筋力の弱った
高齢者にとって重過ぎず、 大き過ぎないも
のが好ましいことなどがわかりま た
認知症予防の可能性も視野に研究を継続
子どもに見立てたり、 寂しさを埋める対
象とした は人それぞれ
定めていくこと
観察記録などで介護
お願いしましたが、 対
るとスタッフの意識も変わ
者にも試すといったこともし
ました。 行動障害が軽減した点な
タッフのみなさんが効果を実感され
代間ギャップのある入所者とも話が や
すくなるといった派生効果も報告されて
います。 
この研究では、 焦燥感やイライラ感のあ
る人に効果があることがわかりましたが、
今はその効果についてさらに検証するた
め、 焦燥感やイライラ感の強い人に視点を
当てながらさらに研究を継続しています。
また、 認知症予防 可能性を探るため、
まだ計画段階ですが、 認知症のない独居
の高齢者にうなづく人形や話す人形と関
わってもらって、 心理的変化などを調べ始
めたところです。
認知症の方はいつもしてもらうばかり
ですが、 積極的に何かをしたいと思ってお
られる方も多く、 行動が自分らしさや自己
肯定感につながり、 怒りや不安が収まるの
ではないかと考察しています。 また、 能動
的に気持ちを注げる対象として、 回想療法
の写真や園芸療法の植物などにはない、 人
形にしかない意味があるのではないかと
考えています。
高齢者が人形を抱く姿を見て 「哀れな姿
になって」 と った偏見を持つ人が多いの
ですが、 認知症高齢者にとって人形は子ど
ものおもちゃとは異なり、 心理的ニーズを
満たし安 ることを啓発
ます。 人形を用
て確立していくため
していきたいと考えて
高齢者を正しく理解し、 尊厳
提供を目指し
老年看護の授業を通じて学生に一番伝
えたいことは、 エイジズムを排除して高
齢者を正しく理解してほしいということ
です。 加齢とともにどのように変化するの
か、 成熟するものと衰退するものがあるの
はなぜなのかといったことをきちんと理
解してほしいと思います。
大切なことは高齢者の現時点を見るの
ではなく、 これまで生きてこられた歴史の
経過があるうえでの今を理解してほしい
ということです。 一人ひとりが生きてこら
れた背景をきちんと見ることができなけ
れば、 今現れている姿を正しく理解できま
せん。 そして、 最後まで自分らしく生きら
れる支援?看護を提供してほしいと願って
います。 
今だけ見ていると弱者という捉え方し
かできませんが、 高齢者一人ひとりの生き
様に触れて感動したと言う学生の声を多
く聞きます。 入院期間が短い急性期病院で
はどう理解していくかが難しい課題です
が、 施設での実習などを通じて、 そのよう
な視点を持つことの大切さを学生に知っ
てもらいたいと思います。 そして、 それが
ほんとうの意味での尊厳を守る看護に繋
がると考えて ます。