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脳神経再生への可能性を開く
神経幹細胞を中心テーマに研究に取り組む
言われる 神経細胞が、
神機能と関係が
あるのか、 私た
ちの気分や情動
が神経幹細胞の
活性化や抑制で
変動するのかど
うかということ
が、 私たちの研
究で説明できる
ようになるので
はないかと考えています。
神経幹細胞がどういうメカニズムで発生
してくるかということについても、 トロン
ト時代から継続して研究を続けています。
さらに、 神経幹細胞の発生に関係のある遺
伝子が、 受精の瞬間からどういう働きをし
ているのかを調べる過程で、 受精卵の研究
も行っています。
神経内科疾患の治療につながる研究を
もう一つの柱に
気分安定薬の薬理作用を確認して、 それ
を基に新たな気分安定薬を開発することを
一つのゴールとすると、 もう一つの柱は、 薬
で神経幹細胞が活性化できることがわかっ
てきました で、 それを用いて神経内科疾
患の治療につながる研究を進めていくこと
です。 
グリア細胞の一つであるオリゴデンドロ
サイトには、 神経細胞同士を結んでいる軸
索をラップして、 神経細胞同士の会話 ス
ムーズにする働きがあります。 これに対す
る自己免
ずいしょう
が壊れる
と、 私が臨床
免疫性脱髄性疾
ます。 
神経細胞が障害された
して、 その後神経同士のネ
ぎ直さなければならないので
とても難しいことです。 例えばA
縮性側索硬化症) は運動ニューロン
される疾患ですが、 運動ニューロンは脳
ら脊髄を通って筋肉まで、 大人なら1メー
トル以上の距離があるため、 これを再生さ
せようとすると、 単に神経細胞をそこに置
くだけではなく、 そこから1メートル以上
の軸索を伸ばさなければなりません。
一方グリア細胞は長い距離のネットワー
クを作らず、 ある程度分裂能力を持ってい
るので、 その場で細胞が修復できれば機能
を回復する可能性が高く、 神経疾患の再生
医療の対象としてはかなりやりやすいので
はないかと考えています。
ドーパミンを産生する細胞が再生できれ
ばある程度治療が可能になるパーキンソン
病が、 再生医療の最初のターゲットになっ
ています。 その次は脊髄損傷で、 その次に多
発性硬化症のようなグリア細胞をターゲッ
トにした治療法の開発の可能性が高いので
はないかと考えています。
100年後の礎 なる
しっかりとした研究をモットーに
東京大学神経内科の医局に掲げられてい
た、 東大神経内科初代教授豊倉康夫先生の
「焦らず脊伸びせず100年後のために」 と
いうこと 
臨床出身の研
気をなんとか治
んに還元できること
究に臨んでいますが、
とができるわけ はありま
そこでこのことばになります
先の結果を求め と本質を見失い
伸びをして無理 結果を出そうとす
違ったことを発表してしまうかもしれま
ん。
「ダイレクトに患者さんのメリットに
らなくても、 将来の研究者の礎に るよう
なしっかりした研究をやる」 という意味で
あると解釈し います。
目先のことを追わないという とを大切
にしながら、 研究を継続させるために必要
なことは当然やっていきます。 継続的に論
文を出しながら、 短期的、 中長期的な目標を
バランスよく組み合わせ 、 確実な土台に
なる研究 目指してやっていくことが私の
研究姿勢です。
遠い先のゴールだけでなく、 日々誰も知ら
ない新しいことがわかり、 純粋に好奇心を刺
激するところが研究の楽しみの一つです。 回
り道や袋小路もよくありますが、 続けていれ
ば正しい道を見つけることができます。
研究者として研究を始めた時から、 発信
する相手が世界になります。 世界中の研究
者と競い合っていくことは厳しい面もあり
ますが、 学会でのディスカッションは対等
で、 世界に先駆けて研究成果を発表す こ
とは何ものにも代えがたい喜びになりま
す。 若い研究者のみなさんに是非この研究
室に参加していただき、 い しょに新しい
研究 挑戦していきたいと考えていま 。
成獣マウスの脳から培養した神経幹細胞。活発に増えて
直径0.1~0.2mmくらいの細胞の塊となっている。