日本人男性における腸内細菌そうと脳体積との関連

論文タイトル

Relationship between Gut microbiome and brain volumes among Japanese Men

掲載誌

PLoS One

DOI:10.1371/journal.pone.0333612

執筆者

Sabrina Ahmed, Zhang Hexun, Yuichiro Yano, Yukiko Okami, Nazar Mohd Azahar, Keiko Kondo, Hisatomi Arima, Sayuki Torii, Mohammad Moniruzzaman, Gantsetseg Ganbaatar, Aya Kadota, Akira Andoh, Akihiko Shiino, Hirotsugu Ueshima, Katsuyuki Miura and for the SESSA Research Group
(太字は本学の関係者)

論文概要

近年、腸の中に存在する多様な細菌の集まり(腸内細菌そう)が、認知症などの脳の健康に関係することが注目されています。動物モデルや特定の患者集団を対象とした研究では、腸内細菌叢と脳の大きさ(脳体積)との関連が示唆されていますが、一般の人を対象とした研究は十分に行われていません。
私たちは、滋賀潜在性動脈硬化症疫学研究(SESSA)に参加した滋賀県草津市の一般住民男性623名(平均年齢68歳)を対象に、腸内細菌叢とMRIで測定した脳体積との関連を調べました。
その結果、脳で情報処理を担う「灰白質」の体積が大きいグループで腸内細菌の多様性が高い傾向がみられました(図1、2)。ただし、この関係は、年齢や生活習慣(肥満、身体活動、喫煙、飲酒、高血圧など)も影響を取り除くと無くなりました。さらに、いくつかの腸内細菌が、灰白質やそれをつなぐ「白質」の大きさと関係していることも示されました(図3)。
これらの結果から、中高年の日本人男性において、腸内細菌のバランスや種類が、脳の健康の一つの指標である脳体積に関連している可能性があると考えられました。今後、時間の経過に伴う変化も追いながら、腸内環境の改善が認知症予防に役立つかどうかを検討していきたいと考えています。

図1
図1.灰白質における腸内細菌叢の多様性(β多様性)
灰白質が大きい群で腸内細菌叢の多様性が高いことが示唆されました。
図2
図2.白質における腸内細菌叢の多様性(β多様性)
白質が大きい群で腸内細菌叢の多様性が高いことが示唆されました。
図3
図3.多変量補正線形回帰モデルによる腸内細菌叢と脳容積(白質および灰白質)との関連に関するヒートマップ
赤:正の関連、青:負の関連
いくつかの腸内細菌は白質あるいは灰白質と関連しました。これらの関連は、年齢や生活習慣(身体活動、高血圧、喫煙、飲酒)の影響を取り除いても同様に認められました。

文責

NCD疫学研究センター?センター長 三浦 克之

滋賀動脈硬化疫学研究(SESSA: Shiga Epidemiological Study of Subclinical Atherosclerosis)

滋賀県草津市住民から無作為抽出された一般住民約2000人を対象に、潜在性動脈硬化指標?認知機能とその関連要因子を検討し、心血管病?認知症の早期発見および予防に資する所見を明らかにすることを目的とした疫学研究です。
ホームページ:https://shiga-publichealth.jp/sessa/